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2011年11月 1日 (火)

アマゾンが提示してきた電子書籍の契約書のこと

 とりあえず、ぼくは、電子なら、(文章だけの)小説は、キンドルの画面で読みたいな。

●まずは、自分の立場、電子書籍とのかかわり合い

 仕事しては、僕が関わった本は2册、電子書籍になってます(hontoで発売中)

 僕の仕事場にも(実家にも)、本が山のようにあります。仕事場のほうは、小説に限ってはけっこう処分したけど、写真集や画集はそのまま。これらは、少なくとも今現在のiPadなどでは、解像度不足だし、自炊することもないと思う。

 僕が今出しているiPhone・iPad画集も、基本的には、ちょっと小さな判型(A5版)で出してたものを電子画集にしたもので(あ、早川書房から刊行されたグイン・サーガ画集は違うな。紙の画集はけっこう大きな判型だ)、元々その判型にした意図は、

 手軽にいつでも見られること、
 そしてSFマガジンを置いたの棚に一緒に並べてもらいたかったからで、

それはつまり、僕の仕事場にあるたくさんの画集が、大きかったり、箱に入っていたり、本棚の奥のほうでなかなか引っ張り出してこれないから、なかなか気軽に見ることが出来ない、という理由があったからなのですが(出してきた画集や写真集はつい、そのへんに放り出しておく結果に)。

 ぼくは、自分の画集は、そんなことを気にせずに、いつでも手に取って見てもらうことを優先したので、iPadでもまったく問題ないのです(かなり拡大して表示できるようにしたし)。

●話をアマゾンが提示した契約に戻します。
 僕はもとの契約書を見ていないので、どこまでも推測で書いてますが、まとめると以下のようになるらしい

・出版社の全書籍を電子書籍(データ)化
・紙よりも低い価格を義務づける
・収益の55%はamazonのもの
・書籍の著作権は出版社が保有するのが条件

 この4つ目について書いてみます。

 ぼくがこれまで出版社と印税契約で出した本は、そんなには多くないけど、僕自身が日本美術著作権連合の理事をしていた経験から、何も知らない方よりは知識もあり、企業との契約書も交わしてきた経験があるので、そのあたりから書いてみます。

 本を出すとき、著者と出版社の間で交わす契約には2種類あります。

●『出版権の設定』契約

 基本的に「独占契約」です。その著作権使用料はロイヤリティ方式になります。ロイヤリティという名前なのは、著作権は、むかーし、ヨーロッパの王が、海賊版を何とかしてほしいという印刷会社にあたえた「独占・お墨付き」の権利、つまり王(ロイヤル)なのね。ちなみに、日本で「印税」と呼ぶのは、その「お墨付き」を、著者が「印」を押した小さな紙を著作権の「証紙」として本の奥付部分に糊付してたから。今は、省略されています。(ワンダーフェスティバルでは、これに似た方式を採用しています。)

 『出版権の設定』では、著者は出版社に対して「独占的に」出版を許諾します。その契約期間は3年と著作権法で定められています。3年が経った後、更新されることもあります。
 この契約期間内は、著者は、他の出版社から同じ内容の本を出すことが出来ません。
 そういったシバリがあるかわりに、出版社は、一定期間内にその本を出版する「義務」があります。原稿を受け取ったのに、いつまでもその本を出さないでほっておくことは許されないのです。

●出版契約

 こちらは、シバリ(独占・3年・すぐに出版する)が無いタイプの契約です。
 著作権法ではなく、ビジネス上の「契約」となります。色々な条件を書いた『出版契約』の契約書を両者で交わします。内容は、両者が同意していれば基本、問題ありませんが、公正でなければなりません。片方に一方的に不利になるような契約は許されません(通称『下請け法』などで定められている)。例えば、この契約に「独占」の項目を入れた場合は、それに対する対価は、通常の金額よりも大きくなるでしょう。

(書くのを忘れてたので追加。支払いはどういう方式でも公正な契約なら、つまり、常識的な金額なら、一括でもいいし、ロイヤリティ方式でもいいし、両者が納得していればいい。一括の場合は、手続きが一回で終る代わりに、あとでベストセラーになる可能性も考えなくちゃならないから、金額を決めるのはタイヘンだろうな。ロイヤリティだと、作者は最初にまとまったお金はもらえないけど、後々すごーい売れたら、とおもうと、やっぱりこっちだけど、支払う側は面倒)

 ちょっと前置きが長くなりましたが、ここからが本題。

 そのどちらも、基本、著作権は著者が持ちます。
 出版社は、著者から「複製権の一部である「出版」を対価の代わりに一定期間、貸与されるだけ。

 そういった中で、出版社が著者から「複写権」の中の「出版する権利」を買い取ってしまう場合があります(著作財産権の譲渡)。
 ただし、作者が自分の作品に名前を付ける権利は、日本では譲渡は許されないので、著者は印税を受け取ることは出来ないけど、その本の著者名は、かならず明記されていなければなりません(『氏名表示』という権利を含む、著作者人格権は譲渡できない)。

 出版権の設定も、出版契約も、売りつくせばおしまい(増刷も可)。そこで契約は終わります。

 しかし、電子書籍の場合はそうはいきません。

 売りつくす、ということが無いのですから。

 アマゾンは、一度、本を電子書店に並べたら、いつまででも売りたい(お店に並べておきたい)でしょう。

 だから今回の契約の中に、出版社が出版する権利をすべて持つことを要求してきているのだと思います。作者が「もう売りたくない」と言ってきても、出版社が権利を買い取っていれば、そんな心配は無いからです。

 もう一つ、理由があります。
 出版社が倒産してしまったら・・・。

 アマゾンは、売り上げの中から、分配金を出版社の口座にまとめて振り込みます。
 出版社がつぶれてしまっても、あらためて著者と契約し直して、著者個々にお金を払うメンドウなことをしないで済むでしょう。

●そしてここからが本題の中の本題。今回は、このことを書くために、長々と書いてきたのであります。

 では、著者がマゾンから電子書籍を出してもらいたいとき、必ず、出版社に出版する権利を売ってしまわないと、アマゾンから電子書籍は出してもらえないのか。

 そんなことはないと思います。『出版権の設定』ではなく、独占ではない『出版契約』にしておけばいいのです。

 最初に出した本は、その出版社をとおしてアマゾンから、ほぼ永久に出し続けてもらってかまわない。
 そのかわり、著者は、同じ内容の本を、他の出版社から出し直してもらえばいいのです。

 そもそも、アマゾンが予定している電子書籍には、『3年縛り』があり得ないのですから、『出版権の設定』契約もあり得ず、契約は「出版契約(非独占)」でしか出来ないのです。独占にしたいなら、独占料を別途要求すればいい。

 ということであれば、アマゾンで出す分は最初の出版社に任せ、初公開の作品ならある程度の期間を置いて、そうでなければ、本を作り直してアップルで出したってかまわない。

 ここで最初に紹介した

・書籍の著作権は出版社が保有するのが条件

 ですが、これが正しいとすれば、「著作物の著作権」ではなく「書籍の著作権」なのであり、
 「出版権」ではないのですが、今回のことが話題になった別の記事では、

 「その作品に関す巣あらゆる権利を出版社が網羅的に管理する」みたいなことが書かれていて、さてどちらなのでしょう?

 日本の著作権法では、複製権以外の例えば「翻案権」などは、その媒体ごとに、具体的に・個々に契約書に「特掲」されてなければならず、「すべて」などよいう契約は許されていません。

 

まあ、著作権専門の弁護士じゃないから、どこかに間違っている可能性もおおいにあるし、前のほうに書いたように、元の契約書を見ていないので、今現在の僕の理解はそんなとこ。

●この文章は、アメリカの出版界の商慣習をあまり知らないで書いているので、間違っている可能性もあります。

 アメリカの話 その1

 小説家が小説の映画化権を映画会社に売ってしまうことがあります。その場合、小説家は、映画に何も言う権利は無いようです。しかし、元の小説を出版する権利は著作者のものであって、映画会社のものにはなりません。
 これは、ジョー・ホールドマンさんが『終りなき戦い』の映画化権を映画会社に売ってしまったときのことをご本人から教えてもらった内容デス。ところで、本当にリドリー・スコット監督の『終りなき戦い』は作られているのでしょうか?

 アメリカの話 その2

 同じ小説が、時期を変えていろいろな出版社から出ていることは当たり前のようにあります。この場合、出版社同士て権利の売買があるかどうか、ぼくは知りません。


 *追記 「書籍の著作権」ではなく、「書籍化の著作権」かもしれませんね。「書籍化」という言葉は聞いたこと無いけど、日本語としては間違っていません、それは「出版権」と同等ではないけれど、

 【出版権】 厳密に言うと、出版する権利は著者のもの。その著者が持つ権利を、一時的に期間を限って出版社に委託したり譲渡したりするのが「出版する」ということ

 【電子出版の権利】 には著作者が持っている著作権の中の複数の権利を総称したものかな。たとえば

 ・複製権(これが大元の権利。出版権は、普通の「複製(例えばコピー)」に比べれば,遥かに部数が多い(大量に複製して公開することを「頒布(はんぷ)と呼びます)
 ・デジタル化権(デジタルデータにすることで簡単にコピーできるようになるので、出版権とは別に別途定義されている権利ですけど、著作権法の条文にあるかどうかは、僕は最近の著作権法を読んでないので、知らないであります。
 ・公衆送信化権(デジタルデータを、誰でもアクセスできるサーバーなどに置く権利。名称は不正確かも)


●10月2日の朝、追記
 この文章は、著者(小説家とか)の立場について書いたものです。本には多くの人が携わっており、例えば、編集・装幀(装幀デザイン・装画・写真)などは少し立場が異なってくるので、そのへんの事情は次回にでも。

  2 につづく
 

 
 

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コメント

アメリカの映画に関する著作隣接権は、極端に映画製作者に有利に出来ている様ですね。小説家側もそれに対抗し、作品の映画化は許可するが、主人公の名前の使用は許可しない(映画で表現されたキャラクターが独り歩きする事を恐れるのかな)なんて契約も行なわれているようです。アメリカの場合、著作物も著作権法上の権利を主張する為には、出願が必要ですよね、著作権が自然成立する我が国とは随分違います。世界的に見てもアメリカの著作権法は特異性が高いと思います、Amazonがアメリカ基準を日本の作家に提示しても反発が強いでしょうね。

脚本などは、後で脚本に参加した人がどんどん勝手に書き換えちゃったり、とかあるみたいですね。
(アメリカには著作者人格権の条項が無いので)

で、アメリカも日本と同じように、著作権は特別な登録を必要としないという条約を批准したので、いまは、出願は必要ありません。

>公衆送信化権(デジタルデータを、誰でもアクセスできるサーバーなどに置く権利。名称は不正確かも)

正しくは「送信可能化権」。

>デジタル化権(デジタルデータにすることで簡単にコピーできるようになるので、出版権とは別に別途定義されている権利ですけど、著作権法の条文にあるかどうかは、

そういう権利は日本の著作権法にはありません。マルチメディアが叫ばれた時代に各国で検討されたのですが、なくても対処できるという結論に達したのです。

>【電子出版の権利】 には著作者が持っている著作権の中の複数の権利を総称したものかな。

その理解でいいと思いますが、日本書籍出版協会のHPにある契約書ひな型では「電子的使用」「二次的使用」の二つの条項にまとめているので、どういう権利の集合体かはあまり考えなくてもよさそうです。http://www.jbpa.or.jp/pdf/publication/publication01.pdf

ご指摘、有り難うございます!! 僕の知識は10年以上前に仕入れたものなので、とっても助かります。

その知識の殆どは、日本美術著作k年連合の理事会に出席していたときに、他の理事の皆さんから教えてもらったもの。概念などはある程度理解しているつもりですが、用語の正確性とかはダメですねー

最近、ロボット検索のキャッシュの解釈が、以前と変更されていてビックリしたことがあります。

今は、趣味の自転車に関連して、道路交通法を読むだけでせいいっぱいデス。

とても魅力的な記事でした!!
また遊びに来ます!!
ありがとうございます。。

はじめまして。かねがね加藤様のイラストや3DCGで素晴らしい作品を目の当たりにしてきました。とりわけShade等による人物は驚きと日本の3D黎明期に「こんなことができるんだ」というメガショックを受けたことは今も鮮明に記憶しています。私ももともとアメリカンイラストのリアルさに心酔してきたこともありスター級のフランク・フラゼッタ、SFイラストの雄シド.ミード、シネマメディアの大御所ボブ・ピーク等々影響を受け(しかしながら足元にも及びませんが・・・)たまたまあなた様の画集を見かけ、ふつふつと大先輩への感慨に浸る機会を得ました。
この場の枚挙にいとまが有りませんので、申し上げますが私もお恥ずかしながら、同じような(格段の差がありますが)気構えとテーマを叶わぬながらも、持ち続けてまいりました。稚拙ながらも作り貯めた作品をネットに載せております。JPネットにも加入し、リストの末席に加えさせて頂いてます。念願のURLもアップし、ブログも挿し絵を付けたいばかりに素人小説でアップしてます(これは大きな画像に致したく、画像をクリックすると全体像が出て来ます)。もし叶えば末尾にアドレスを付記いたしますので、おひまな折りがお有りでしたらご覧頂けると望外の悦びです。

古代冒険小説 HARUT(ハルト) http://blog.goo.ne.jp/honto_ni_bigjoubu61127/m/200612/2
私のイラストのURL http://www15.plala.or.jp/kaneuchi/
(こちらは若干の3DCGも載せてます)

お忙しいところ、お時間を頂き、誠にありがとうございました。
加藤様の益々のご活躍を祈念致しております。

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