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2011年11月 6日 (日)

垂直世界10 垂直世界の交通網

垂直世界9 女性の顔を描く からのつづき
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 何度も構図の微調整をしながら絵を描き進めているところです。

 一度は完成したかと思った女性の顔も、一晩寝てあらためて見直したてみたら、やっぱりまだ変でした。想像だけで描いているので、骨格そのものや、透視図法的に間違っていたらしいのです。どうやら耳の位置が上にあり過ぎ、作者(僕のこと)の視点を、壁から3メートルほど離れた場所においているはずなのに、2メートルくらいのところから見たような形で描いていたみたいだ。

 この問題に気付いたことで、女性の身体の大きさと、インディアンの大きさの対比に狂いがあることにも気付きました。しかしそれを解決するためには、もっと根本的なところから検討し直す必要が出てきました。

 でもその前に透視図法のことを説明しておきましょう。
 透視図法では、消失点から延びる無数の線は、直線で描くのが基本です。でも本来は、近距離になれば、それらの線は湾曲します。一眼レフカメラのレンズで言うと、対角線魚眼に近い。とくに近距離ではこの「歪み」が顕著に表れます。
 最初から透視図法でもって、すべてのガイドラインを描いてから絵を描き始める人もいますが、僕はその方式を取ることはあまりありません。理由は単純。めんどくさいのです(たとえ後で苦労することがわかっていたとしても)。頭の中にイメージが浮かんだら、もうすぐにでも絵にしてみたいと思うのですよ。


 また、最初から正確を心がけると、その作業だけで力つきたり、最初のインスピレーションが失われてしまうこも経験してきました。

 映画のセットも似ています。狭い部屋で望遠レンズを使うと、互いの位置関係や距離感はイメージに近くても、部屋全体が画面の中に入りません。脳は、自動的に立体を補正し、組み立て直して思い浮かべているのね。しかし全部を画面に収めようと広角レンズを使うと、遠近感が強調され過ぎてしまいます。
 こんなとき、映画のセットでは、手前の壁を取り去ってしまいます。

 同じように、奥に配置したものが、手前のものに隠れてしまうことがあります。絵ではこれを避けるために、あえて地面を傾斜させることがあります。手前の地面を低く、奥の地面を盛り上げる。記念撮影の集合写真では、階段や奥の人を高い位置に立たせることがありますよね。その手法です。実際には斜面になってるけど、それを「言わない約束」として描いてしまうのです。これは絵だから出来ることなのです。

 この「言わない約束」を前提に無意識に構図を決めてしまうと、この「約束」があとで足かせになる場合もあります。
 今回のイラストでは、垂直の壁には、オートバイが下方向に落ちていかないように壁にはケーブルが張り巡らされており、それが透視図法の間違いや嘘を目立たせる結果になりかねません。

 というわけで、ケーブルの配置を工夫して誤摩化せるかどうかを試してみました。
 上下に張られたケーブルと、水平に延びるケーブルの交差部分に、縦から横、横から縦に移動するカーブした斜めのケーブルを混ぜることにしたのです。上手くいったような気もしますが。


 構図の問題は解決したら、次は、SFイラストとしての「理屈」の確認です。上下と水平のケーブルが直接、交差する部分はどうなっているのでしょうか。最初は立体交差で考えていました。しかしその後に、水平に移動するほうが時間がかかるという描写を小説中に見つけたのです。

 そこで、上下の太いケーブルは途切れなく続いているが、水平のケーブルは、交差部分でいったん壁の中のトンネルを通すことにしました。ここでケーブルを分けてしまうと、その1カ所に大きな力がかかります。それを支える構造物を作るほうが、遥かに大変で金もかかる。トンネルなら、少し壁の表面をえぐりとって、トンネル素材を埋め込めばいいのです。

 垂直の世界では上下優先がルールと也、水平を移動する場合、この交差部分では、オートバイは一時停止して、ケーブルの反対側を掴み直すような方式ですね。前後輪は、上下のケーブルを乗り越えるのはけっこうタイヘンかも。

 こういった事柄を考えながら、オートバイとケーブルの位置関係も決めていきます。
 オートバイの重量は、このメインケーブルと、オートバイのハブ(車軸)から前後に打ち込まれるワイヤーの先に付いたピトンが使われます(人物の移動と同じ)。

 そして、このハブから打ち出される先端にピトンが付いたワイヤーが、走行中にケーブルを擦る音がする、という描写も見つけました。

 これらを総合的に判断して決めたのが、以下の図です。
 (青く塗った部分がケーブルの断面)

02s


 そもそもこのケーブルを使った交通網は、『シリンダー』が作られたときに、最初の設計段階から折り込まれていたのでしょうか。小説には、壁のあちこちにアクセスのための端子がありますが、ケーブルとともに、どうやら、後付けの雰囲気が色濃く漂っています。市民たちは、最初はシリンダーの内部で生活していますが、それが長い時代をへて、シリンダーの外の垂直の世界(荒野)に乗り出していったらしいことから類推できます。

 これが、垂直の壁にケーブルがつなぎ止められている構造や金具(支持架)のデザインに繋がります。
 水平に張られたケーブルは自重で垂れ下がるでしょうから、その間隔も短くなるでしょう。

 そしてそれらの要素がまた、構図の嘘を暴くことになり、どんどん深みに・・・

垂直世界11 主人公を配置につづく
(イラストの公開はSFマガジン2012年1月号で)


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